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世界を読み解くコラム

  • 経済学部
  • 人口学から読み解く日本の現状と未来
  • 井上 孝 教授
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結婚、男性はあまる宿命!?

人口学というと堅苦しくとらえられがちですが、もう少し身近なところに落とし込んでみると、非常に興味深いものになります。

 

例えば“結婚”も人口学で論じることが可能です。戦後日本の人口構成からみると、現代女性は結婚市場において、圧倒的に有利だと言えます。その理由のひとつに、まず出生性比があります。これは太古から現在に至るまで変わらないもので、女性の出生数を100とした場合、男性はだいたい105で、これは民族、国家、時代を問わず、常に一定です。ですから構造的に男性はどうしてもあまってしまうわけです。もうひとつ、平均初婚年齢を見た場合、日本では男性が女性より2歳くらい年上なので、戦後のほとんどの期間で出生数が減少してきたことを鑑みると、男性から見て2歳下の女性の数が少ないことになり、これまた女性の方が有利ということになります。

 

2010年の生涯未婚率が発表されたとき、その数値に研究者たちは非常に驚かされました。生涯未婚率というのは、50歳時点で結婚を一度もしたことがない人を指しますが、男性が20%、女性が10%と、ダブルスコアになってしまっている。これは20年前には予想もしなかった数字です。この理由の一つとして、再婚率が挙げられます。男性の方が女性よりも再婚率が高く、一度結婚した人が二度、三度と結婚する。言ってみれば、ひとりのモテ男が二度、三度と結婚をするから、モテない男があぶれ、生涯未婚で過ごすという構造になってしまっている。ですから学生には「男性は一度つかんだ女性を手離してはいけないよ」と冗談交じりに話しています。

団塊世代が社会現象を生んできた

日本は世界で最も少子高齢化が進んでいる国の一つであり、これから人口減少が加速します。2005年に1億2,777万人だった人口が、55年後の2060年には8,674万人と3割以上も減少することが見込まれています。そうした未来にどのような社会が待っているのか、人口という面から、まずは過去の日本をみてみましょう。

 

第二次世界大戦後、第一次ベビーブームが起きます。特に1947~49年に生まれた人たちを団塊世代と呼びますが、彼らをコーホート(同時出生集団)で見てみましょう。

 

コーホートというのは、例えば、1947~49年に生まれた団塊世代を含む1945〜49年生まれの人たちを区切って“1945~49年コーホート”と呼びます。生まれた年別の集団に対して分析を加えるのが、人口学のひとつの特徴なのですが、この1945~49年コーホートが、働き手となる15~20年後の1960~1969年を右図「大都市圏・非大都市圏類型別県間移動数」で見てみると、非常に多くの人が非大都市圏から大都市圏へと移動しているのがわかります。彼らは鉄鋼や造船など、重厚長大産業での豊富な働き手となって、日本を高度経済成長へと導きました。

 

しかし1975~79年頃になると、それがぴたりと止まります。これは「Uターンの時代」と呼ばれて、大都市圏から故郷へと人々が戻っていったために起きた現象であると言われましたが、実はやや違います。帰る人が増えたのではなく、出てくる人が少なくなったのです。右上図を見てもわかるように、非大都市圏から大都市圏に移る人がガクンと急激に減っています。

 

なぜ非大都市圏から大都市圏へ移る人が減ったかというと、第一次ベビーブームが終わって、50年代以降は出生数が大きく減っていますから、出て行く年代の人たちの母数の人数がそもそも減ったということなのです。団塊世代と次の世代の人口規模の格差がこのような社会現象を引き起こしたと言える、これを私たちは「コーホート効果」と呼んでいます。経済学的な側面から言えば、高度経済成長が起きたから人口移動が起きたという説になり、巷でもそう言われることが多いようです。それを否定はしませんが、人口学者の立場からは、高度経済成長が起きたのは豊富な労働力があったからこそだと言えます。経済現象と人口はシナジー(相互作用)効果があるものだと言うこともできるでしょう。

 

それでは、再び「大都市圏・非大都市圏類型別県間移動数」の図を見てみましょう。1993年頃に再び、1975~79年頃と同様の逆転現象が起きていますが、これは団塊ジュニアと関わってきます。団塊ジュニアは1971~74年に生まれた人たちを指しますが、これを含む1971~75年生まれのコーホートを見てみると、彼らが20歳になった頃になります。彼らはそろそろ実家を離れる年頃なわけですが、団塊ジュニアは団塊世代の子供として、もともと大都市圏に生まれている。ですから非大都市圏から大都市圏へ移動してくる人の数が減ってしまったというわけです。

 

これはまだ研究途上ではっきりとは言いきれませんが、大都市圏に生まれた団塊ジュニアは、生活圏に大学や就職先もあるから移動する必要がありません。そうすると実家を出る理由がなくなり、パラサイトシングルが増えていく。人は誰しも幸せになりたいと思うものです。結婚してこれまでよりも経済的に貧しくなるよりは、いまの生活水準を保ちたいと考え、未婚率が上昇。こうして晩婚・非婚化が起き、少子化となって高齢化が急激に進むという、人口問題のひとつの流れが生まれてきていると考えられます。

高齢化問題は大都市圏の方が深刻

高齢化問題というと、大都市よりも過疎地のこととしてとらえている人が多いかもしれません。確かに、高齢化率は過疎地の方が高いですが、これからの高齢化は大都市圏の問題として大きくクローズアップされていくと思います。というのも、これから21世紀半ばにかけては、大都市圏の高齢化率の上昇スピードが非大都市圏のそれを上回ることが多くなるからです。

 

ではなぜ大都市圏の高齢化の進行が速いのか。これもまた団塊世代が原因として挙げられます。彼らがまんべんなく全国に散らばって暮らしていれば地域差は発生しませんが、彼らは大都市圏に偏って住んでいます。正確に言えば、どの世代も大都市圏に偏っているのですが、団塊の世代はその偏り方が他の世代よりも大きいのです。その世代が今この瞬間に次々に高齢者になりつつあるのです。なかでも高度経済成長期に建設された大都市圏郊外の大規模団地では、ある瞬間に一気に、住民が高齢化してしまうという事態が増え始めています。団地のような集合住宅は、最初に入居した人たちの世代が特定の年齢層(30歳代を中心とした階層)に偏っているため、その人たちがずっと住み続けると、ある時にまるでオセロゲームのように住民の大半が高齢者になってしまうというわけです。そして、そうした住民の多くが団塊の世代なのです。しかもそういった集合住宅は老朽化が著しく、バリアフリーにも対応していません。4、5階建てでもエレベーターもない。足腰が弱ってしまっても階段を昇り降りするしか方法がないのです。こういった高齢化に伴う問題が、これから大変な勢いで増えていきます。

 

このように、いずれにしてもこれから高齢化はますます深刻化することは間違いないのですが、実は、現在約25%(2013年)に達している高齢化率を一夜にして下げる方法があります。どうすれば良いかわかりますか? 答えは、高齢者の定義を変えれば良いのです。通常、65歳以上の人を高齢者としますが、この年齢の基準を75歳以上にしたら、高齢化率は一気に半分くらいに減ります。これはあながち冗談ではありません。65~74歳の前期高齢者にアンケートをとってみると、彼らには健康で労働意欲がある人が多いことがわかります。つまり、平均寿命が延びた今日、前期高齢者を75歳以上の人たちと同じ「高齢者」として扱うことは、あまり合理的とはいえなくなりつつあるのです。

 

ところが高齢化のスピードは一夜で解決することはできません。定義を変えても、速いものは速い。問題なのは、社会システムの多くがハード、ソフトを問わず人口構造を基にしてつくられていることです。一番の例が年金ですし、高齢者施設にしても、介護保険制度にしてもそうです。しかしすぐに制度設計できるものではありませんから、高齢化のスピードが速い大都市圏に注目する必要があるのです。

高齢化を恐れず、新しい社会をつくる

このような高齢化問題に対しては、まだ制度がほとんど追いついていないように思われますが、困ったことが出てくるとそれ相応の解決策、あるいはビジネスチャンスが生まれてくるものです。

 

例えば、先の高齢化する団地問題に対しては、UR都市機構が面白い取り組みを行って成功した事例があります。東京・日野市にある古い団地内の数棟を、若い世代向けのおしゃれな賃貸住宅にリノベーションし、その周囲に新旧住民が集えるようなさまざまな施設を整備しました。

 

その結果、団地内でさまざまな世代が活発に交流するようになったとのことです。また、旧公団住宅の事例としては、多摩ニュータウンのうち最も初期に開発された地区の20棟余りが、民間デベロッパーによって7棟の高層マンション群に建て替えられたことが興味深いです。

 

この事例がなぜ興味深いかというと、建て替え前の居住者が、ほとんど追加負担をすることなく新しいマンションに入居できたからです。これは、容積率(敷地面積に対してどれくらいの延床面積の建物が建てられるかという、建築基準法上の基準)の余裕部分を使って従前よりも総戸数を大幅に増やし、増加分の住戸を分譲して建て替えの費用を捻出するという手法を用いたからです。こうして、エレベーターもなくバリアフリーに対応していない、という古い団地の抱える問題が完全に解決されたわけです。

 

日本はこれから年間数十万人単位で人口が減っていきます。先ほど話をした「人口ボーナス」とは逆の時代に突入するわけです。人口が減少し、国民一人当たりの生産性がそれまでと同じであるならば、今後日本経済が縮小することは容易に推測されます。こうした未来に、人口学者はえてして悲観論を唱えがちですが、私はときどき楽観論者に宗旨替えします。高齢化や労働力の低下という問題は、人間が決めた区分に基づくものです。それを先の高齢者の定義のように、再び人間が作り変えれば良いのです。ある程度高齢化が進むのは仕方のない流れです。高齢化を受け入れ、それでも良い社会をつくるという新しい発想が大切なのだと考えています。

あわせて読みたい

  • 『首都圏の高齢化』 井上孝・渡辺真知子編著 (原書房:2014)
  • 『日本の人口減少社会を読み解く―最新データからみる少子高齢化』 京極高宣、高橋重郷編集 (中央法規出版:2008)

青山学院大学でこのテーマを学ぶ

経済学部

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  • 井上 孝 教授
  • 所属:青山学院大学 経済学部 現代経済デザイン学科
    担当科目:地域人口論、地域人口論演習、地域人口論研究、地域人口特論、現代経済デザイン総合講義、卒業論文、人口問題A(日本の人口問題)、人口問題B(世界の人口問題)、専門演習Ⅰ・Ⅱ、地域人口論特別演習
    専門分野及び関連分野:人口地理学, 人口学, GIS, 統計学
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