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消費税10%時代への疑問

安倍晋三首相は10月1日に記者会見を開き、現行5%の消費税率を予定通り来年4月から8%に引き上げると表明しました。さらに2015年10月には、10%への引き上げも予定されています。あなたは、この消費増税に賛成でしょうか?それとも反対でしょうか?

 

いま日本は「歳出100兆円、税収40兆円」の国になっています。この現状を踏まえれば消費税の引き上げ自体はやむを得ない…。しかし、その前にすべきことがある、というのが多くの国民の反応ではないでしょうか。
私自身は今回の消費税増税に関して、いくつかの点で疑問を抱いています。

 

まず第1に、増税によって得られるお金の使い道です。
消費増税は本来なら社会保障改革策と一体で議論され、増税分は国民の将来不安を解消するために使われるはずでした。しかし安倍政権は消費税引き上げに伴う景気の落ち込みを防ぐためとして、低所得者に現金を給付する「簡素な給付措置」や、賃金を増やした企業に対する減税措置の拡充、2015年3月まで法人税に上乗せして徴収される予定だった「復興特別法人税」の1年前倒し廃止などを盛り込んだ、総額5兆円規模の経済対策を検討しています。社会保障に充てるはずの増税の目的はどこへ行ったのか、十分な説明が欠けています。

 

第2は、増税に伴う問題点についての議論が置き去りにされているのではないか、という疑問です。
例えば「電子商取引に対する消費税の内外格差」の問題です。本来、消費税は国内取引に課税されるのが基本で、輸入品の場合は税関で輸入業者が消費税を支払います。しかし、インターネットを通して配信される電子書籍や音楽、映像などの場合、海外の事業所から配信されたデータを消費者がダウンロードしても税関はチェックできません。消費者にとっては、日本語の電子書籍や日本人向けの映像でも、海外から配信を受ければ消費税分安く購入できるため、国内企業の競争条件が不利になってしまうのです。ぜひとも改正しないと、国内被用者40万人の雇用に影響を与えることとなります。

 

こうした問題に対する議論が十分になされないまま、消費税増税が実施されてしまうとしたら、大きな疑問です。国民の大多数がそれに賛成ならよいのですが、もし大多数の国民がおかしいと思いながら“専門的な話なので口出しできない”と考えているなら、それこそ大問題です。なぜなら、税は市民が合意して法律にしない限り課税できないものだからです。

 

「税金は払いたくないし、関心も持ちたくない」などと言わず、一度、日本の税制の実態をのぞいてみましょう。“税制は社会を映す鏡”ですから、不公正で不合理な仕組みが社会にある以上、それは税制にも反映されているのです。

「減税の歴史」のなかで感じる「重税感」

税金とは本来、自分たちの属する組織である国家のために必要な財源を拠出するものです。にもかかわらず「取られる」というイメージが付きまとうのはなぜなのでしょうか。

 

戦後日本の税制改正は、経済成長による自然増収を背景に、基本的に減税の歴史をたどってきました。さらに、バブル経済崩壊後も、政権党は政権を維持するために減税を続けてきました。減税を維持するために国債を乱発し、未来の税収を先食いしてきたのです。

 

政治家も減税を主張するのがあたかも正義であるかのように振る舞ってきました。本来、減税を求めるのは「国に自分の金は出さない代わりに国には何も求めない」という富裕層のはず。これに対して一般市民は「富裕層に適切な負担(増税)を求めて公的資金を確保し、所得の再分配を通じて社会保障を充実させてほしい」と願うはずです。にも関わらず“減税こそ正義の味方”という主張がまかり通ってきました。こうした税制改革の結果、日本は、税の負担は低く、公務員の人口比率も少ない“小さな政府”になっています。

 

グラフ(1)は、OECD(経済協力開発機構)諸国の「国民所得に対する租税負担率の割合」を比較したものです。これを見ると、日本の税負担率は22.1%と主要先進国の中でも最も低い水準であることがわかります。税負担率が高いことで知られるスウェーデンは46.9%で、日本より2倍以上も重いのです。

グラフ(2)は、各国・地域の付加価値税率(標準税率)を比較したものですが、これを見ても、日本の消費税はカナダや台湾と並んで最も低い水準であることがわかります。

 

では次に、国民が税負担についてどう感じているかを比較したデータを見てみましょう。国際比較調査グループ・ISSPが2006年に行った各国の『中間層の租税負担に関する調査』によると、日本では「税負担率が高い」と思っている国民が60%以上と主要国の中で5番目に高く、スウェーデンは日本より下位の8位です。

 

税負担は低いのに重税感を感じている日本。税率は高いのに重税感をあまり感じないスウェーデン。この違いはどこからくるのでしょうか。

 

日本では税金を負担したことによるメリットを感じることが少ないのに対し、北欧では負担したことによるメリットが実感できる機会が多いのではないでしょうか。この違いが、税を「政府に預けるもの」と感じるか、「お上に取られるもの」 と感じるかの違いとなって表れているのです。

日本の税制をどうするべきか

では、どうすれば日本でも税を「政府に預けるもの」ととらえることができるようになるのでしょうか。
まず、税制を改正するプロセスを適正かつ公正なものにする必要があります。

 

現在、毎年行われている税制改正は、8月頃に各省庁からの改正要求が示され、それらを与党や政府の税調で検討した上で、12月中旬に「税制改革大綱」として示されます。自民党政権では実質的に与党の税調が議論し決定していますが、そこでの審議経過はまったく不透明で、政府大綱で初めて知られるようなこともあります。その後、税制改正法案が作成され、国会で1月から3月くらいまで審議され、可決成立すれば新税法が適用されることになります。

 

この過程が適正・公正なものになれば、税制の不合理も是正されていくことになります。そのために最も必要なことは、議会の議員および政党がきちんとした税法の理解と意見を持つことです。政権党とその議員たちがしっかりとした認識を共有し、公正な税制改正案を創れば、財務省もそれに従わざるを得ないからです。

 

また、税制改正のプロセスに国民が参加することも必要です。

 

私自身は、現在のように税制改正を毎年やる必要があるのだろうかと考えています。今後は、税制改正を2年に1度の国民的大イベントにしてはどうでしょうか。1年目は政府が原案を出し、2年目は各政党がそれを巡って喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を行うのです。同時に、各政党の議論に対して国民各層が広く意見を出し合います。

 

こうすることで、一般の人が税に関心を持ち、税のことを日常的に話題にできるようになるでしょう。そのためには、税の中身を“見える化”するシステムづくりも必要です。

 

税金を何に使うかの議論に、国民はもっと参加すべきです。そうすれば国民は税金を「お上に取られるもの」ではなく「政府に預けるもの」と感じることができるのではないでしょうか。どんな政策を行うためにどんな税金を使うのか…これが政治です。つまり「税金問題こそ政治の本質」と言えるのです。

主権者として税を考えよう

日本の税に関する最も古い記録を辿ると、3世紀頃にまでさかのぼります。『魏志倭人伝』には日本の税に関する最初の記述があり、卑弥呼が支配する邪馬台国では税が納められていたと記載されています。

 

税金の歴史はこれほど長いのですが、実はその大部分は“王様がいる時代”の歴史でした。その時代、王様は自分の代理として行政機関に特権を与え、国民から税金を取り立てていました。こうした仕組みの中では、国民にとって税金は「取られるもの」「奪われるもの」でしかありませんでした。

 

戦後、日本では新しい憲法が制定され、主権者は国民自身となりました。国民が自分たちの“国”という組織を自らの力で運営していくシステムになったのです。納税者が主権者になったのですから、本来は税制も主権者が決めなければならないはずですが、税務行政は、王様がいた時代のさまざまな制度をそのまま引きずって、取り締まり的な発想の下で行われてきました。

 

特に、日本の所得税の場合、源泉徴収(いわゆる「天引き」)と会社が行ってくれる年末調整のおかげで、一般のサラリーマン家庭では、ほとんど税金について考えなくて済むような社会になってしまいました。これが国民や政治家に “増税は悪、減税こそ正義の味方”との意識を醸成してしまったのかもしれません。そろそろ、この意識を変えなくてはいけないのです。

 

しかし、私たち日本国民は、このことを本当に理解しているのでしょうか?税金は相変わらず「取られるもの」と感じるのであれば、その原因はどこにあるのでしょうか?国民が主権者になったにも関わらず、それを自覚できないまま税金と正面から向き合ってこなかった結果、いつの間にか日本は「財政支出100兆円、税収40兆円」(グラフ(3))の国になっていました。これはいったい、誰の責任なのでしょうか?

 

主権者である以上「税金は払いたくないし、関心も持ちたくない」では済まされません。税を決めるのは私たち自身なのです。今回の消費税増税を機に「私たちの税金のしくみをどう作り、そのお金をどう使うのか」について、一緒に考えてみようではありませんか。

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