AGU RESEARCH

未来を創るトピックス
ー 研究成果に迫る ー

青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。

  • 経営学部 マーケティング学科
  • 掲載日 2026/06/19
  • なぜ人はブランドに愛着を感じるのか―「ブランド・リレーションシップ」の本質を読み解く
  • 久保田 進彦 教授
  • 経営学部 マーケティング学科
  • 掲載日 2026/06/19
  • なぜ人はブランドに愛着を感じるのか―「ブランド・リレーションシップ」の本質を読み解く
  • 久保田 進彦 教授

TOPIC

久保田進彦教授が長年取り組んできた研究成果をまとめた『ブランド・リレーションシップ』が、各方面で高く評価され、複数の学会において賞の栄誉を獲得

数々の受賞

久保田教授のこれまでの研究内容を体系的にまとめた著書『ブランド・リレーションシップ』は、2024年8月に刊行され、翌2025年6月に日本商業学会での「学会賞(著書部門・優秀賞)」受賞を皮切りとして、日本マーケティング学会で「日本マーケティング本大賞2025(準大賞)」、さらに日本広告学会で「学会賞(学術著書部門)」を受賞するなど、各方面から非常に高い評価を受けました。

受賞のポイント

ブランド・リレーションシップ概念を丁寧に整理し、消費者とブランドの関係性を学術的に提示するとともに、マネジメントに向けた具体的な枠組みを提案しています。また、本書で示された豊富な実証研究の結果は、ブランド研究やマーケティング研究の発展に寄与するだけでなく、ファン・マーケティングをはじめとするさまざまな戦略に取り組む企業に対しても、有益な示唆を提供しています。(※日本マーケティング本 大賞2025 推薦理由より抜粋)


イラスト:矢印

トピックを先生と紐解く

久保田 進彦教授

明治学院大学経済学部卒業。株式会社サンリオ勤務を経て、早稲田大学大学院商学研究科へ進学。同研究科修士課程修了。同研究科博士後期課程単位取得済退学。博士(商学)。中京大学商学部、同大学総合政策学部、東洋大学経営学部などを経て、2013年青山学院大学経営学部マーケティング学科教授に就任。専門はマーケティング、ブランド・マネジメント、マーケティング・コミュニケーション。著書に『ブランド・リレーションシップ』『リレーションシップ・マーケティグ』『はじめてのマーケティング』(いずれも有斐閣)、『リキッド消費とは何か』(新潮社)など。

まず、先生の研究テーマである「ブランド・リレーションシップ」とは何ですか?

一言でいえば、私たち消費者が感じるブランドとの心の結びつきです。「ブランドへの愛着」と表現することもできますし、少し大げさにいえば「ブランドとの絆(きずな)」と捉えてもよいでしょう。大好きなブランドに対するファン心理と考えても、間違いではないと思います。

なぜ、そもそも、このテーマに興味を持たれたのですか?

私がこの研究テーマに関心を抱いた原体験は、大学卒業後にキャラクタービジネスを行う民間企業に勤めていた頃のことです。当時、クリエイティブ業界にはMacユーザーが多く、Apple社の新製品の発表会ではファンが拍手喝采する姿が見られました。その様子を見ていた会社の後輩が、「この人たち、なぜこんなに喜んでいるんでしょうね?」と疑問を口にしたのです。そこでハッとしました。「企業が新製品を発表するのを、まるで自分のことのように喜ぶのは、たしかに奇妙だ」と思ったのです。Macに愛着を感じている人たちに囲まれるなかで、一体なぜ、そうした心理が生じるのだろうと考えました。

もう一つ、忘れられない体験があります。新入社員時代に販売店研修を受けていた時のことです。その日、ある商品が店頭で欠品していました。通常、そういう時は「店間移動」という処理をして、他店舗から配送便で商品を送ってもらいます。ところが先輩社員の一人が、「明日、私が1時間早く家を出て、◯◯店で受け取ってから出勤します」と手を挙げたのです。「その方が商品を早く届けられるので(顧客である)子どもが喜ぶし、自分たちのお店をもっと好きになってもらえるから」という理由でした。今思えば、これは組織コミットメントという心理に基づく行動なのですが、当時は、この自己犠牲とも思える申し出に「どうしてそこまで……」と衝撃を受けました。

こうした2つの体験から、「人が組織やブランドに抱く愛着とは、いったい何なのだろうか」と疑問に思ったことが、私の研究の原点となっています。

先生の「ブランド・リレーションシップ」の考え方にはどのような特徴がありますか?

私はブランド・リレーションシップを、「自己とブランドの間に生まれる肯定的で持続的な心理的結びつき」だと捉えています。ブランドと消費者の心理的な結びつきについては、1990年代後半から学界でも注目され始め、多くの論文が発表されてきました。ただし当時は、「自分らしさを実感するためのブランド」といった、いわば「自己確認や自己表現のための小道具」としてブランドを捉える研究が多い状況であり、私自身もそうした研究に関心を抱く一方で、やや物足りなさも感じていました。ブランドに対する愛着は、自己確認や自己表現だけではなく、もっと内面的で、深い心理に関わる部分もあるのではないかと考えていたからです。

そこで私の研究では、ブランド・リレーションシップ、つまりブランドと消費者の心理的な結びつきを、二つの側面から捉えることにしました。一つは、自己確認のための「小道具としてのブランド」。もう一つは、友人のように寄り添ってくれる「パートナーとしてのブランド」です。これら二つの側面を統合的に扱っている点が、私の研究の特徴であり、オリジナリティーだと考えています。

「自己表現」としてのブランドと、「パートナー」としてのブランド。それぞれどのようなものなのでしょうか?

英語では「小道具」のことを“prop”といいます。propとは、propertyの略です。そこで、自己表現の小道具としてのブランドを「プロパティー型ブランド」と名づけました。一方、友人のようなブランドは「パートナー型ブランド」と呼ぶことにしました。そして、これら二つの考え方を組み込んで、ブランド・リレーションシップがなぜ生まれるのかを説明する「プロパティー・パートナー・モデル」を開発しました。このモデルでは、ブランド・リレーションシップの形成要因として、「ブランドの自己表現性」「ブランド・セイリエンス」「並ぶ関係」の三つを想定しています。

「ブランドの自己表現性」は、そのブランドが現実の、あるいは理想の自分らしさを表現するのにふさわしいものである程度を示す概念です。また、「ブランド・セイリエンス」は、そのブランドがさまざまな状況や環境において、どの程度思い浮かびやすいかを指します。心の中での存在感といってもよいでしょう。存在感のないブランドに対して、愛着が形成されることはありません。

そして「並ぶ関係」ですが、これはとても興味深い要素です。心理学者のやまだようこ先生(京都大学名誉教授)によって提唱された、幸せな二者関係の基本構図を示す考え方です。やまだ先生は、1,500人以上の大学生に「幼い頃の自分と母親の関係」を自由に絵に描いてもらい、それらを分析しました。その結果、母親と幸せで理想的な関係にある大学生が描いた絵は、どれもよく似ていました。母親と自分が「隣に並んでいる」構図が圧倒的に多かったのです。私は、この「並ぶ関係」というあり方が、人が特定のブランドに対して抱く深い愛着にも当てはまることに気付き、ブランド・リレーションシップの形成要因の一つとして位置づけました。
こうして出来上がった「プロパティー・パートナー・モデル」ですが、その後、消費者調査を何度も重ねて分析した結果、「ブランドの自己表現性」が中心的な役割を果たす場合もあれば、「並ぶ関係」が中心となってパートナー的な関係が築かれる場合もあることが明らかになりました。

ブランド・リレーションシップのプロパティー・パートナー・モデル(コアモデル)

先生の場合、研究はどのように進められていくのでしょうか?

基本的な流れは、アイデア(ひらめき)→ 仮説構築 → 調査 → 分析 →
論文執筆という順序です。ただし、最初のひらめきも、何かが思い浮かんだからといって、すぐに学術的な論理につながるわけではありません。私の場合は、ノートに図やメモを描き、それを何日か「寝かせ」、日を置いてからあらためて見返し、再度思考するという過程を何度も繰り返しています。思いつきの図やメモを数日後に見返すと、「これはおもしろいな」「こことここはつながらないな」など、さまざまな点に気付くのです。実は、「寝かせる」ことでアイデアの良し悪しを見抜くというテクニックは、キャラクタービジネス企業に勤務していた時に、同期のデザイナーの友人から教えてもらったものでした。彼にはその後、私の本の装丁もしてもらいました。いまは美大の教授をしていますが、友人というのは素晴らしいものですね。

また、ブランド・リレーションシップの研究では、大学の特別研究期間制度を利用することができました。1年間にわたり、授業を行わず、研究に没頭できる環境を与えてくれた青山学院大学には、本当に感謝しています。毎日研究室に通い、朝から晩まで時間をかけて考え、見直し、再び考える。そうした進んでは戻るサイクルをひたすら繰り返すことで、じっくりと論理を深めることができました。

ブランド・リレーションシップは企業にとってどのような意味を持ちますか?

ブランド・リレーションシップは、SNSで瞬間的にバズらせるような「魔法の杖」ではありません。企業には、表面的な活動ではなく、自分たちはどういうブランドを築き上げたいのかを考え、ゆっくりと時間をかけて、ファンと良い関係を築いていく姿勢が必要です。それがプロパティー型であれ、パートナー型であれ、消費者に受け入れられるブランドを構築するには、顧客を裏切らず、長期的な信頼や愛着を積み上げていくことが大切です。どれだけ時間をかけて信頼関係を築いていけるかが、これからのブランドにとって重要だと考えています。

企業にとってすぐに売上アップに直結するような内容ではないのですね。

ブランド・リレーションシップは、企業の競争優位性を向上させ、高い利益をもたらすものです。その意味において、私の研究は企業にとって魅力的なものだと思います。しかしその一方で、私たち大学の研究者は、企業から依頼を受けて課題解決を行うコンサルタントとは異なります。いかにすれば社会全体が良くなるのかを考えることが、私たちの重要な役割です。企業の活動が効果的・効率的になり、それによって消費者が幸せになる道筋を探すことが、経営学者の使命といってもよいでしょう。

NHKで報道番組を制作しているジャーナリストの友人がいるのですが、彼は「真実を明らかにしたい」という動機のもとで活動しています。私たち研究者も同様に、研究の根底には「真実を解き明かしたい」という強い思いがあります。企業にとって都合の良い情報を届けたり、便利な手法を提供したりすることが、大学研究者の仕事ではありません。むしろ、消費者を誤解させるような間違ったマーケティングが行われないようにし、ブランドと消費者のより良い関係がどのように築かれるのかを社会に示していくことこそが研究者の役割です。この本も、そうした考えに基づいて書いています。

書籍「ブランド・リレーションシップ」は15年以上にわたる長期間の研究が体系的にまとめられたものですが、長期にわたって一つのテーマに取り組むことの価値はどのような点にありますか?

かつて、研究者にとって大切なのは「著書」を書くことでした。しかし、いまは「論文」を書くことへと変わりつつあります。時間をかけて一冊の本をまとめるのではなく、スピーディーに研究成果を発表することが重視されるようになりました。これは、デジタル化に象徴される社会の変化を考えると、自然なことだと思います。音楽の聴き方が、CD時代の「アルバム」から、ストリーミング時代には「楽曲」へと変わったのと似ていますね。私は、「著書」にも「論文」にも、それぞれ魅力があると思います。そして「著書」には、複数の研究成果を組み合わせることで、体系的で大きな主張が構築できる良さがあると考えています。これは、「楽曲」よりも「アルバム」の方が、アーティストの考えや世界観が伝わりやすくなるのと同じです。

最後に、これから大学で学ぶ高校生へメッセージをお願いします。

私が企業を辞めて大学院生となり、研究を行っていたころ、恩師である指導教授から「研究者はグランドテーマを持たなければならない。あなたが何の研究者かが、他の人から見て一目で分かるようでなければいけない」と言われました。いま私は、そのことを若い人たちに「星座をつくる」という言葉で伝えています。
夜空を眺めると、いくつもの星が見えます。そして、星と星が組み合わさることで星座に見えます。でも、星座に見えるのは、星と星が離れているからです。星と星が離れているからこそ、かたちが生まれます。同じところに星が固まっていては、星座にはなりません。それでは、星と星がものすごく離れていたらどうでしょう。あまりに離れすぎていても、やはり星座にはなりません。

私たちの活動も同じではないでしょうか。ずっと同じことを繰り返すのではなく、少しずつテーマをずらしていくことで、より大きな主張ができるようになります。でも、あまりにかけ離れたテーマに取り組んでしまうと、一つのかたちとしてまとまらなくなってしまいます。もし素晴らしい星座をつくりたいなら、離れすぎないところに新しい星を置いていく必要があるはずです。星と星がまとまりを持って見えるように、工夫する必要があるわけです。もちろん、さまざまな経験をして、さまざまな知識を得ることは、とても大切です。とくに若いときは、幅広く学ぶことも重要です。そのうえで、自分なりの軸を持って学び続けることで、やがてそれらが結びつき、自分自身にとって大きな意味や価値となっていくはずです。一歩ずつ、自分なりの学びを重ねてほしいと思います。

※掲載されている人物の所属や役職、研究内容は、
原則取材時のものです。

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