AGU RESEARCH

未来を創るトピックス
ー 研究成果に迫る ー

青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。

  • 経営学部 経営学科
  • 掲載日 2026/07/02
  • 「学び合うチーム」はどう生まれるのかー知識共有の障壁を超える変革型リーダーシップと実践コミュニティ
  • 松尾 睦 教授
  • 経営学部 経営学科
  • 掲載日 2026/07/02
  • 「学び合うチーム」はどう生まれるのかー知識共有の障壁を超える変革型リーダーシップと実践コミュニティ
  • 松尾 睦 教授

TOPIC

松尾睦教授の論文「Transformational leadership and team communities of practice: overcoming knowledge sharing barriers」(*)がナレッジマネジメント分野における権威ある学術誌「Journal of Knowledge Management」に掲載

*日本語訳:変革型リーダーシップとチーム実践コミュニティ:知識共有における障壁の克服

「Journal of Knowledge Management」とは

英国のEmerald Publishing社が発行するナレッジマネジメント分野における査読付き学術誌です。1997年に創刊され、多角的な視点からの研究成果が掲載されており、国際的に高く評価されています。

論文のポイント

長年にわたり組織論を研究してきた松尾教授が、組織的支援理論および変革型リーダーシップ理論に基づき、「実践コミュニティ(コミュニティ・オブ・プラクティス/CoP)」において、変革型リーダーシップが知識の創出や他チームとの知識共有、さらには他チームに対する知識の隠蔽にどのような影響を与えるかを検証した点が評価されています。


イラスト:矢印

トピックを先生と紐解く

松尾 睦教授

小樽商科大学商学部を卒業。北海道大学大学院文学研究科行動科学専攻修士課程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士後期課程修了。ランカスター大学経営大学院博士後期課程修了(Ph.D. in Management Learning)。岡山商科大学商学部助手・講師・助教授、小樽商科大学商学部助教授、同大学大学院商学研究科教授、神戸大学大学院経営学研究科教授、北海道大学大学院経済学研究院教授を経て、2023年に青山学院大学経営学部経営学科教授に就任。専門は経営組織論、職場学習論。著書に『仕事のアンラーニング:働き方を学びほぐす』(同文館出版・2021年)、『経験学習リーダーシップ:部下の強みを引き出す』(ダイヤモンド社・2019年)、『Unlearning at Work: Insights for Organizations』(海外書籍/Springer・2021年)など。

この論文はどのような内容ですか?

この論文は、以下の点を明らかにしたものです。
(1)集団のリーダーが変革型リーダーシップを発揮するほど、チームは実践コミュニティの特性を持つようになる。
(2)実践コミュニティの特性を持つチームメンバーは、新しい知識を創造し、それを他のチームのメンバーと共有する傾向が高まる。
(3)変革型リーダーシップと実践コミュニティの両方が揃った場合に、自分の知識を他のチームに対して隠さなくなる。

実践コミュニティとはどのようなものでしょうか?

実践コミュニティとは、(1)関心・情熱の共有、(2)コミュニケーションと協働、(3)知識の共有という3つの特性を持つコミュニティです。つまり、実践コミュニティはメンバーが関心や「お互いに学び合いたい」「問題を解決したい」といった熱意や目的を共有し、互いに助け合いながらオープンなコミュニケーションのもとでともに活動し、自分たちの知識やスキルを共有することで、それらを集団の財産として蓄積していく集まりを指します。私はチーム単位の職場を対象として、実践コミュニティがメンバーにどのような影響を与えているのか、また、どのようなリーダーシップが実践コミュニティを促進させるのかについて研究しています。

「変革型リーダーシップ」は、通常のリーダーシップとは異なるのでしょうか?

リーダーシップは、単にリーダーが先頭に立って組織を率いるだけではなく、メンバーの意欲や能力を引き出すことが非常に大切です。また、優れた組織やチームを形成するためには、リーダー個人の努力に加え、組織の雰囲気やメンバー間の協調性も重要な要素です。これらが相互に作用することで、組織としての力が高まると考えられます。

変革型リーダーシップとは、革新的なビジョンを示すことで、メンバーが自らの「利己的な関心(目先の自分の利益)」にとらわれることなく、組織全体の発展というより高い目標に目を向けるように働きかけるリーダーシップのことです。

本研究でも示しているように、実践コミュニティにおいては、メンバーの成長が促進される一方で、次第にチーム内の結束が強まることにより、他チームとの間に心理的な壁が生じ、外部知識を共有しにくくなる、いわゆる「知識隠蔽」が起こる場合があります。こうしたネガティブな行動を防ぐために、メンバーに対して適切に動機づけを行い、支援や助言を通して成長を促しながら組織全体として革新を導いていくことが重要です。このような働きかけを中核とするのが変革型リーダーシップです。

この実践コミュニティと変革型リーダーシップの関係を示したのが今回の論文なのですね。

変革型リーダーシップを持つリーダーは、(1)自らがロールモデルとなって手本を示し、(2)目指すべき方向性や将来像をチームに提示します。これらに加えて、(3)メンバーのアイデアを積極的に引き出し、(4)一人一人の成長や努力に寄り添い、コーチやメンターとして活動を支えていくという特徴を持っています。

こうした支援的かつ育成的な働きかけが備わることで初めて、変革型リーダーシップが十分に機能し、実践コミュニティとしてのチームを、より高い目標へと導くことが可能になります。論文では、変革型リーダーシップが実践コミュニティの形成を促し、その結果として、メンバーが新しい知識を生み出し、それをチーム外のメンバーと共有するようになることを実証的に明らかにしました。

さまざまな形式のチームや集団があると思いますが、この研究成果はどのような場面でも通用するのでしょうか?

本研究の知見は、多様な場面において適用可能であると考えられます。職場に限らず、学校においても、人々にとって最も身近なのは、5〜6人から10人程度のチームであり、そうした場が「学び場」として機能することが重要です。私は、チームの雰囲気が個人の学びや成長に大きく影響するという視点から、研究を進めています。

例えば大学のゼミにおいては、学生同士が教え合い、コミュニケーションを図りながら成長していきます。その過程の中で、指導教員や学生リーダーが、ビジョンを示しながら、一人一人に目を配りながら、新しい知識が生まれる学びの場を整えていくことが重要です。その結果、個々の学生の成長が促されると同時に、ゼミ全体としてもより高い成果を生み出すことにつながります。そしてこのような考え方は、公的機関における業務や、利益を追求する一般企業においても同様に適用可能です。このようなリーダーシップと実践コミュニティのあり方が、組織の持続的な発展と安定に寄与すると考えています。

このような研究に取り組むきっかけはあったのでしょうか?

きっかけについてお話しすると、私は青山学院大学に着任して今年(2026年度)で4年目になりますが、着任当初、経営学部の3名の先生方から「研究会をやりましょう」と声をかけていただきました。その後、2〜3カ月に1回、各々の研究内容を発表し、意見交換を行う機会を継続的に持つようになりました。その過程で、互いの研究を知ることで刺激し合い、新たな知見や視点が得られる場となりました。同じ学部の教員同士が協力しながら、互いの研究を評価し、率直に建設的な意見交換を行う中で、このような4人程度の比較的小規模な集まりにおいても、実践コミュニティが成立し得ることに気付きました。

本来、実践コミュニティはより大規模な集団に適用される概念として議論されてきましたが、このように小規模なチームにおいても有意義な活動が成立することを自ら経験し、その役割や効果について検討を進めたことが、今回の研究の出発点となりました。

組織を構成するのは個人ですが、組織や集団の中で、個人の学びはどのように加速していくのでしょうか?

個人の成長は、他者との関わりの中で促進されます。そこで重要となるのが、今回検討した「実践コミュニティ」という概念です。既に述べましたが、実践コミュニティには、「関心・情熱の共有(ドメイン)」、「コミュニケーションと協働(コミュニティ)」、「知識の共有(プラクティス)」という3つの特性があります。メンバー同士が同じ関心や情熱を持ち、開かれたコミュニケーションを通じて、助け合いながら、知識やノウハウを共有・蓄積していくことが特徴です。このような実践コミュニティが形成されることで、個人の学習は単独で行う場合と比較して大きく促進され、結果として組織全体の知識創造や能力向上にもつながると考えられます。

変革型リーダーシップを持つリーダーの行動は、メンバーの知識共有に直接的に影響を与えるのでしょうか?

今回の論文で最も面白かった発見の一つは、変革型リーダーの存在がメンバーの知識共有に「直接的」な影響を及ぼすわけではないという点です。たとえリーダーが高い志を持ち、メンバー一人一人に寄り添い、配慮した行動をとるような素晴らしい存在であったとしても、リーダーの存在「だけ」では、メンバーが自らの知識を他のチームにまで積極的に共有するようになるわけではありません。

データで明らかになったのは、リーダーの行動はあくまで「間接的」な影響を与えているという点です。変革型リーダーは、革新的な未来像(ビジョン)を提示してメンバーに挑戦を促すと同時に、一人一人の意見を引き出したり、コーチングしたりと支援を行います。こうした働きかけを通じて、チーム内に学習が促進される基盤としての「実践コミュニティ」という「場」が形成されます。そして、そのような場における活動が媒介となり、「間接的」にメンバーの行動に影響を与えることになります。

つまり、リーダーの働きかけによってチーム全体が「主体的に学び合う場」として機能することで、メンバーは自らの利害(利己的な関心)にとらわれることなく、他の部門に対しても知識を隠さずに共有するようになると考えられます。

一方で、チームの結束が高まることで生じる「知識の隠蔽」という問題があるとお聞きしました。どのような現象なのでしょうか?

実践コミュニティは学習を促進する一方で、注意すべき側面も潜んでいます。チーム内の結束が強まることで、他のチームに対して自らの知識を共有せずに留めてしまう、いわゆる「知識の隠蔽」が生じやすくなる場合があります。これは、他部門との競争意識や自己評価といった短期的な利益にとらわれることで、本来は組織全体の利益やイノベーションにつながるはずの知識が十分に共有されなくなる現象を指します。

変革型リーダーは、組織全体の発展に向けた高いビジョンを示すことで、メンバーが目先の利益を超えて行動するよう働きかけます。さらに、メンバー一人一人の意見を引き出したり、コーチングを行ったりする個別支援によって、チーム内部における関心や目的意識の共有を強化します。このように、動機づけと支援の双方を通じて、知識の隠蔽を抑制し、組織全体の利益やイノベーションの創出につなげていく点に、変革型リーダーシップの重要性があると考えられます。

変革型リーダーシップによって、知識の共有が進み、知識隠蔽が起こりづらいことが示されている

実践コミュニティは、知識共有だけでなく、働く人の心理面にも良い影響を与えるのでしょうか?

はい、別の調査分析において、実践コミュニティの存在は、知識の共有だけでなく、働く人の心理的満足にも寄与していることが明らかになりました。具体的には、「自律的に働けている状態(自律性)」、「周囲と良好な関係にあること(関係性)」、「自分はできるという感覚(有能感)」という3つの基本的な心理的欲求が挙げられます。これらが満たされることで、働く人のウェルビーイング(精神的・社会的に良好な状態)の向上に深くつながると考えています。

先生の研究されている経営組織論は、私たちの身近な環境でも生かせるものでしょうか?

もちろんです。経営学や組織論の知見は、決して遠い世界の話ではなく、日常生活におけるさまざまな集団にも応用可能なものです。皆さんにも、自分の所属する部活動やゼミ、これまで経験してきた集団などに当てはめて、「どのようにすればその集団がより良く機能するのか」を考えてみていただきたいです。学んだ知識を実際の環境に応用してみることで、それらは社会で役立つ実践的な知として定着し、将来にわたって活用できるものとなります。

最後に、これから大学で学ぼうとしている高校生に向けてメッセージをお願いします。

研究や仕事において最も大事なのは「探求」と「感動」です。自らが抱く疑問や関心について深く掘り下げていく営みが「探求」であり、その仕組みが解き明かされ、課題が解決されたときに得られる喜びが「感動」です。こうした経験は、多くの方がすでに高校生活の中でも実感しているものではないでしょうか。これからの大学における学びにおいても、この姿勢を大切にしながら知的関心を追究していくことが、将来における皆さんの大きな原動力になるはずです。


※掲載されている人物の所属や役職、研究内容は、
原則取材時のものです。

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