青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。
TOPIC
BA賞とは
「BA賞」とはビジネスアナリシス賞の略で、ビジネスアナリシスの啓蒙を全世界的に展開しているIIBA(International Institute of Business Analysis)の日本支部が年に1回表彰している賞です。IIBAは、国際的かつ中立的立場でビジネスアナリシスの啓発を行う非営利団体であり、啓蒙活動を通じて関係者に新たな価値を提供できるようビジネスに変革をもたらすことを重視しています。今回、本学の社会人向け履修証明プログラム「ADPISA」の教育内容が評価され、「BA賞2023」を受賞しました。
ADPISAとは
「ADPISA」(青山・情報システムアーキテクト育成プログラム/Aoyama Development Program for Information Systems Architect)は、未来の情報システムを創出できる「情報システムアーキテクト(ISアーキテクト)」の育成を目的とした社会情報学部の社会人向け教育プログラムで、「ADPISA-E(エントリーレベル)」「ADPISA-M(中級者レベル)」「ADPISA-H(上級者レベル)」の3つの履修モデル構成で開講されています。
情報を活用し、ビジネスに新たな価値をもたらす能力を自律的に伸長していく能力を身に付ける場として、多くの受講生を受け入れています。
トピックを先生と紐解く
宮川 裕之 教授
社会情報学部 学部長
社会情報学科 教授
青山学院大学 理工学部卒業。同大 理工学研究科 工学専攻修了。助手や嘱託を経て文教大学情報学部で教鞭をとり、2008年より青山学院大学 社会情報学部教授に就任。 2013年より情報メディアセンター所長、2018年より同学部長を務める。情報処理学会情報システム教育委員会委員、 情報システム学会特別顧問。
居駒 幹夫 教授
社会情報学部 社会情報学科教授
北海道大学 工学部卒業後、1980年から総合電機メーカーに勤務。ソフトウェア事業部などで大規模ソフトウェア製品の品質保証、ソフトウェア生産技術、 グローバルソフトウェア開発環境構築などを担当。2018年青山学院大学で任用(学部特任教授)。2023年教授。博士(情報学)。情報処理学会情報システムと社会環境研究会主査、情報システム教育委員会委員。
山口 理栄 プロジェクト教授
社会情報学研究科 ADPISAプロジェクト 教授
筑波大学 情報学類卒後、総合電機メーカーに勤務し、大型コンピュータのソフトウェアプロダクトの開発、設計、製品企画などに従事。二度の育休を経て部長職まで務め、2006年から社内の女性活躍推進プロジェクトのリーダーに就任。2010年に独立し育休後コンサルタント®として活動。2021年7月より現職。
社会人向けの履修証明プログラムとして、2019年に「ADPISA」本格スタート
ビジネスに変革をもたらす人材を育成する講座として外部団体から表彰
DX時代の社会人教育を推進する大学ならではの場としてさらに成長を
宮川
ADPISAは、青山学院大学が提供する社会人向けの履修証明プログラムで、未来の情報システムを創出できるDX人材、すなわち情報システムアーキテクト(ISアーキテクト)を育成することを目指しています。DX人材とは、新たな価値を生み出すことのできる情報の仕組みを構想し、実現する力を持つ専門人材です。これまでの人材教育が「ビジネス」と「情報」を別々に扱っていたのに対し、ADPISAではこれを統合した教育プログラムを提供しています。ISアーキテクトは、単にシステムを使える人材やオーダーに沿ったシステムやアプリケーションを作れる情報技術者ではなく、何を作ればよいかを共に考え、社会的要請に応えられる専門人材を指します。
ADPISAは社会人を対象として、こうしたDX人材の育成を目指し、ISアーキテクトとして求められる専門性、幅広い課題への応用力、IS専門家としてマインド・セットを身に付けることを目標として体系化された教育プログラムです。
宮川 裕之 教授
山口
ADPISAは現在「ADPISA-E(エントリーレベル)」「ADPISA-M(中級者レベル)」「ADPISA-H(上級者レベル)」の3本立てで行われています。最初は2019年に「ADPISA(H相当)」からスタートしました。またコロナ禍において女性の再就職が難しくなった社会背景を受けて、文部科学省が女性のリカレント教育事業を支援していたこともあり、2021年には現在の「ADPISA-E」の母体となる女性向けITリカレント教育プログラム「ADPISA-F」を開講しました。私自身が長く企業で女性活躍推進に従事していたこともあり、「ADPISA-F」の企画段階でお声がけをいただいて、私もこのプロジェクトに加わっています。
居駒
「BA賞」は、ビジネスアナリシス賞の略で、ビジネスアナリシスの啓蒙を全世界的に展開しているIIBAの日本支部が年に1回表彰している賞です。ここで言う「ビジネスアナリシス」は、字義通りの「業務の解析」ではなく、「企業の変革を引き起こすことを可能にする専門活動」を意味しています。
BA賞では、ビジネスアナリシスを実践し効果を挙げた団体だけでなく、ビジネスアナリシスの発展に寄与するような教育を実践し公開している団体も対象とされています。ADPISAは大学の履修証明プログラムという学校教育法等に定められた正式な教育プログラムで、その中にビジネスアナリシス関連の科目を有していること、そしてその科目を基幹科目として教育プログラムを編成しているという2点で高い評価をいただきました。さらに、これまで5年間の教育実績があり、受講者数も毎年増加していることも、ビジネスアナリシスの普及に大きな影響を及ぼしていると判断されました。
居駒 幹夫 教授
居駒
ADPISAと時代が合っていると感じたのは、2018年に経済産業省がデジタルトランスフォーメーション(DX)レポートを公開し、DXに対する社会認知が大きく変容したのを実感した時です。そこから、情報技術を生かしてビジネスを創生していこうという社会機運が大きく醸成され、社会人に対するIT教育も大きくクローズアップされていくことになりました。ADPISAの構想は2016年にスタートしていますから、少し時代に先行していた感じですね。また、宮川先生がライフワークとして30年来もDXに通じる情報システム学の重要性を説いていらっしゃいましたから、そうした下地があったからこそ、本学では社会的な機運を先取る形でISアーキテクトの育成をスタートできたのだと考えています。
宮川
1998年に「情報システム学へのいざないー人間活動と情報技術の調和を求めて」という書籍を共著で出版したのですが、ここに著したことがADPISAの教育方針のベースになっています。「情報システム」と言う言葉からは大抵の方はコンピュータをイメージします。けれども、実際には、コンピュータシステムと人間とが協働して、新たな価値を生み出しているのです。
「人間」と「システム」は切り離して捉えるのではなく、一緒に設計する必要があります。ビジネスの領域においても同じで、情報技術とビジネス活動をしっかりと結びつける教育を行うADPISAに通じているのです。デジタルと人間活動をつなぐことで新しいものを生み出すことがDXの本質だと思っています。
宮川
2008年に社会情報学部がスタートしたときから、本学部では文系の「社会科学」「人間科学」と理系の「情報科学」を融合させた学びにより、各専門分野をつないで新たな発想へと導く力を培うことを大切にしています。「社会科学」「人間科学」「情報科学」の3つの領域が重なったところにこそ、社会情報学部の特徴があり、そこに強みが生まれるという考えです。
例えば、ITに精通していなければ生まれないビジネスのアイデアを生み出せたり、逆にアイデアを具現化することによって価値を生む現場を牽引したりする、そうした人材の育成を重視しています。また学部として実践力の育成を重視しているため、高度な専門性を必要とする社会人向けのリカレント教育を学部創設直後から実施してきています。その取り組みの一つであるADPISAはまさに青山学院大学の社会情報学部の目指す人材育成の社会人版ということが言えます。
居駒
民間企業や大学以外の教育機関でも、いわゆるITの技術教育が充実しているところは数多くあります。しかし、これまでの多くのIT教育は、IT職種の新人や若手に向けた技術研修的な要素が強いのが実態でした。企業が中長期的なビジョンを持って考えた場合、そうした教育内容では大きく分けて2つの問題があると考えています。
一つは教育の対象者層の問題です。今日のITはIT職種の技術者のみが必要とする技術ではありません。さらに、今日の技術の進化スピードは目を見張るものがあり、10年後はおろか5年後にも今の技術が陳腐化している可能性があります。このため、全ての職種の従業員が継続的に学びつづけることが重要になっています。もう一つの問題は、技術を使って価値を生み出すという視点が欠落してきたという点です。テクノロジーを使って、自らのビジネスに価値を生み出すという教育については、これまでほとんどなかったのではないかと思います。この部分についてしっかり教えていこうというのが、他のIT教育とADPISAの大きな違いだと考えています。
宮川
情報システムの開発サイクルは、「施主」「設計者」「施工者」の3者で構成されています。施主の意向を聞いて設計者がシステムの設計を行い、施工者が実際に手を動かしてシステムを作る。そしてそれを施主に納めて、実際のシステム運用が始まるというサイクルです。けれども現状は「施主」「設計者」「施工者」のそれぞれの連携が必ずしもうまくいっていません。意志が伝わらなかったりして、サイクルの調和が図りづらくなっています。
これからの社会には、施主のビジネスに対する思いを理解して、設計者や施工者の役割や専門性も的確に理解し、「サイクルの真ん中に立って調整役を担える人材」が必要です。私たちはその人材を「ISアーキテクト」と呼んでいます。単なる技術教育にとどまらない総合的な学習をとおして、サイクルの真ん中に立てる人材を育成することをADPISAの大きな目標としています。
情報システムサイクル出所:2010年FDキャンプ資料(p-sec) by 児玉公信
居駒
今の日本の情報産業の構造では、「設計者」と「施工者」が同一会社であることが多い一方で、「施主」は別会社であるケースがほとんどです。これでは、注文する人とシステムを作る人が分かれてしまいます。しかしアメリカなどの場合は「施主」の社内にビジネスとIT双方に通じた人材があり、その人が「設計者」になっていることが多いため、サイクルに断絶が生じずに目的意識が共有され、価値を生みやすい仕組みになっています。日本でも、このサイクルを今まで以上に円滑に回し価値を生み出していくために、ITアーキテクトのような人材が重要になっていきます。
山口
現代社会ではリスキリングが重視されています。これは男女関係なく、社会の変化が激しい現代において、求められる職務を担える従業員を育成するために実施されるのがリスキリングということです。そういった学びの場として大学の役割が期待されています。
一方、個人が能動的に学ぶためのリカレント教育も重視されていて、2000年代に日本女子大で初めて行われたのですが、当時は家庭に入った人が再度働きたい、社会とつながりたいという目的を抱いて受講していた人が多かったそうです。コロナ禍以降は、一度職を失った人が再就職をする際に付加価値をつけるために受講することもありますし、非正規雇用の人がキャリアアップを目指すために受講したり、あるいは事務職の人が新しいスキルを身に付けるためだったり、さまざまな理由がありました。ADPISAには40代、50代の受講生も大勢いらっしゃいますので、将来を見据えた時に少しでも安心感を得ておくために学びを志し、それぞれの人生の任意のタイミングで必要と思われる学びに主体的に取り組んでいく。それがリカレント教育の醍醐味だと考えています。
山口
ADPISAはレベルごとに「ADPISA-E」「ADPISA-M」「ADPISA-H」の3つの履修モデルで構成されています。ITスキルという点では「ADPISA-M」「ADPISA-H」とは少しギャップがありますが、「ADPISA-E」ではITを学んだことがなかった方を対象に、情報システムの基礎を身に付け、自律的に学びを継続できる人材の育成を目指していています。
IT未経験の方が、情報システムの基礎やこれまでの自分の仕事と関連づける思考を身に付け、主体的に学びに取り組んでいくことによって、新たな価値を生み出せる人材へと成長していくことができる。そんな姿を思い描いています。例えばネットワークやデータベースに関する用語を理解できるようになることで、「もっとこういう機能がほしい」というユーザー部門からのリクワイアメント(要求)を発信し、伝えられるようになるわけです。「ADPISA-E」の段階から単なる技術教育ではなく、価値を生み出すための学びということを強く意識しています。
山口 理栄 プロジェクト教授
居駒
昨今、日本の学校教育のおける情報の位置付けが大きく変わってきました。初等教育からプログラミング的思考を身につけ、現在のIT企業新人向け教育レベルの「情報」科目を全ての高校生が学び、さらに高度な情報教育を受けた世代が社会に入ってきます。そうした状況の中で、今まで情報の勉強を受けてこなかった現在の社会人の皆さんが今後何十年もの社会生活をどうするのかなと思うこともあります。ですので、さまざまな立場の方や特に青山学院大学のOBOGで関心のある方には、ぜひADPISAを受講してもらえたらうれしいですね。
宮川
社会情報学部として、リカレント教育への貢献を目標として掲げているというお話もしましたが、今の社会変化の中で、大学卒業後何年間、大学での学びが保たれるのですかという問いがあり、大学としてそれにどう答えていくかということはとても大切です。大学は学生にとって自分で勉強をしていく場ですけれど、それだけではなく、これからは戻ってきて勉強し直すところも含めて学部教育のあり方を考える必要があると思います。青山学院大学は、現役学生、卒業生ともに、非常に学校に対する思い入れがあり絆が強いですから、ここを「ホーム」としてぜひ気軽に戻ってきてリカレント教育に臨んでいただきたいと願っています。
関連アイテムはまだありません。