AGU RESEARCH

未来を創るトピックス
ー 研究成果に迫る ー

青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。

  • 地球社会共生学部 地球社会共生学科
  • 掲載日 2026/10/20
  • 世界を支える地図づくりの最前線―「今月の国連マッパー」に日本人として初選出
  • 古橋 大地 教授
  • 地球社会共生学部 地球社会共生学科
  • 掲載日 2026/10/20
  • 世界を支える地図づくりの最前線―「今月の国連マッパー」に日本人として初選出
  • 古橋 大地 教授
TOPIC

国連職員専用の地図プラットフォーム「UN Maps」の基盤となる地図データづくりに参加している古橋大地教授が、2024年8月の「The UN Mapper of the Month」に日本人として初めて選出

UN Mapsとは

国連の各部局の職員が業務で利用するための独自のウェブ地図プラットフォームです。一般には公開されておらず、主に平和維持活動(PKO)や人道支援などの現場で活用されています。ベースマップには、古橋教授がデータ整備やコミュニティ育成に携わっている、世界中のボランティアによって作成・更新されるオープンデータの地図「OpenStreetMap」が採用されています。

今月の国連マッパーとは

国連の地図プラットフォーム「UN Maps」の構築を支えるボランティアコミュニティ「UN Mappers」のメンバーの中から、特に顕著な貢献を行った人物を毎月、一人ピックアップして紹介するものです。2024年8月には、青山学院大学の古橋大地教授が日本人として初めて選出されました。選出にあたっては、マッピングを活用した災害対応や地域コミュニティ支援への継続的かつ積極的な取り組みと実績、高精度な地図づくりを担うバリデーターの育成活動、そしてゼミの学生たちの参加を通じた次世代人材育成への貢献などが高く評価されました。


イラスト:矢印

トピックを先生と紐解く

古橋 大地教授

東京都立大学理学部地理学科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程修了。東京大学 修士(環境学)。2015年、青山学院大学地球社会共生学部地球社会共生学科教授に就任。専門は地理学、地図学。GIS(地理情報システム)やリモートセンシング(衛星画像などを用いた観測技術)、ウェブマッピング、市民参加型の地図づくり(VGI)を研究している。マップコンシェルジュ株式会社代表取締役として、地図情報に関するコンサルティング活動にも従事。

「地図」はどのようにして作られているのでしょうか?

「スマートフォンで地図を使う際に、どのアプリを使いますか?」と学生に尋ねると、大半の学生が「Googleマップ」だと回答します。おそらく地図を利用するために直接お金を払っている人はほとんどいないでしょう。この記事を読んでいる皆さんだけでなく、多くの人にとって、地図はいつでもどこでも無料で使えるのが当たり前の存在だと思います。しかし、その地図は最初から存在していたわけではなく、当然ながら誰かがコストや労力をかけて作成したものです。こうした地図には、企業からの支援を受けて作成したものもありますし、Instagramで利用されている地図には、「OpenStreetMap(オープンストリートマップ)」というオープンデータの地図が活用されています。

何気なく暮らしていると、日頃あまり意識することのない地図ですが、こうして考えてみると、地図は必ず誰かによって作られ、維持されているものだということがわかります。そして、日本では想像しにくいことですが、開発途上国の中には、政府でさえ自国の地図を十分に整備できていない国もあります。また、紛争や災害によって町の様子が大きく変化し、常に新しい地図が必要とされるケースもあります。
つまり地図は、単に道路や建物の形が描かれているものではありません。地域の状況や社会の仕組みを知るための重要な情報であり、常に更新し続ける必要があるものなのです。

「OpenStreetMap」や「UN Maps」とはどのようなものですか?

「OpenStreetMap」はWikipediaのように世界中のボランティアが協力しながら、編集・更新している地図データです。ルールさえ守れば誰でも無料で自由に利用できるため、社会を支える情報インフラの一つだと言えます。人間だけでなく、将来は自動運転車やドローン、AIにとっても重要な情報源になると考えられています。

私自身、2010年のハイチ地震の際に、OpenStreetMapプラットフォームと地図ボランティアコミュニティによる迅速な被災地の地図更新活動「クライシスマッピング」に触れたことをきっかけに、その社会的な重要性に気付きました。そして現在の研究テーマである「参加型地理空間情報技術を用いたレジリエントな社会の構築」に向き合うようになりました。

レジリエントな社会とは、災害や経済危機などの想定外の出来事や環境変化に直面しても、被害を最小限に抑えながら柔軟に適応し、迅速に元の状態、あるいはそれ以上の状態へ回復できる社会のことです。私は、その実現に向けて地図づくりの技術を活用していきたいと考えています。
国連には、職員だけが業務でアクセスできる「UN Maps」という独自の非公開ウェブ地図プラットフォームがあります。これは平和維持活動(PKO)などの最前線で使われているもので、そのベースマップには「OpenStreetMap」が用いられています。

世界中のボランティアマッパーによるリアルタイムでの地図更新作業の様子

地図づくりになぜボランティアの力が不可欠なのでしょうか?

災害や経済危機、紛争などに見舞われている地域への支援を考えると、世界中の地図が必要となります。しかし、途上国や紛争地域などはビジネスとして成立しにくいため、Googleなどの民間企業がコストをかけて詳細な地図を整備することが難しい地域でもあります。だからこそ、ボランティアによる地図づくりが不可欠なのです。私たちのボランティアコミュニティ「UN Mappers」は、衛星画像などを活用しながら現地の詳細な地図データを迅速に作成し、国連の活動を支援しています。「UN Maps」がボランティアを活用する背景には、営利企業だけでは対応が難しいという事情があります。かつては国連内部の専門部署が独自に地図を作成していましたが、世界各地でより詳細な地図が求められるようになり、一つの部署では対応しきれなくなりました。

ナイロビ中心部西側に広がるアフリカ最大規模のスラム街「キベラ」地区での 360° ストリート画像撮影中の様子

そこで注目されたのが「OpenStreetMap」です。国連が必要な情報を追加・更新できることに加え、世界中のボランティアと協力して継続的に地図を充実させられることから、有力な選択肢となりました。私も積極的に地図づくりに参加しており、こうした活動が評価されて、2024年8月に日本人として初めて国連の「今月のマッパー(The UN Mapper of the month)」に選出されました。「The UN Mapper of the month」は、厳密な表彰制度というよりも、毎月、優れた活動を行ったメンバーを特集記事として紹介する取り組みです。コミュニティ内でも注目度が高く、「今月のマッパー」が話題になることも少なくありません。そのような機会に選んでいただけたことを、大変光栄に感じています。

日本人として初めて選出されたことはもちろんうれしいことですが、私一人だけではなく、日ごろからバリデーション(データ検証)活動などに取り組んでいる学生たちとともに評価していただけたことをうれしく思います。

「UN Mapper」として取り組む活動にはどのような種類がありますか?

私たちが取り組む活動の一つが、地図データの検証を行う「バリデーション」です。これは、AIなどが自動で抽出した建物の形状を人の目で確認して修正したり、古い情報と新しい情報を比較したりすることで、地図データの品質を向上させる作業です。世界中のマッパーが協力して取り組んでおり、高品質な地図を維持するために欠かせない活動となっています。
また、「UN Mappers」では、紛争や災害が発生した際の「クライシスマッピング」にも取り組んでいます。これは、衛星画像などをもとに遠隔地から地図を迅速に更新して、支援活動を後押しする活動です。

さらに、自ら現地に赴き、道路だけでなく、どのような施設があり、人々がどのように暮らしているのかといった社会インフラの情報を記録する活動も行っています。

例えばクライシスマッピングでは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際に、避難民を支援するため、モルドバやポーランドなど国境周辺の難民受入施設や支援拠点の地図データを迅速に更新し、ナビゲーションとして活用できるようにしました。

また、現地でのフィールドワークでは、ケニアの首都ナイロビ郊外にある世界最大級のスラム街とされる「キベラ」を訪れ、街を歩きながら、教会やクリニック、学校、図書館など、地域住民の暮らしを支える社会インフラの情報を記録しました。

最近では、在外研究でイタリア・ミラノに1年間滞在し、毎日歩くルートを変えながら約70万枚の写真を撮影して、地域の詳細なデータ収集を行いました。その調査量には、地図づくりに携わる仲間たちも驚くほどだったそうで、現地の大学教員からは「やりすぎだろ」と冗談交じりに言われるほどでした。
このほかにも、通信環境が限られた地域で活用できるオフラインマッピングツールや、ドローンを活用した地図作成技術の開発支援にも携わっています。

ミラノ工科大学での在外研究期間中に、ミラノや各都市をまわり、1年間で100万枚以上のストリート画像データを収集・分析した

そのような多岐にわたる地図づくりの活動を続ける上で、先生が最も大切にしているモチベーションは何でしょうか?

私は、こうした活動に取り組む中で、あまりストイックになりすぎずに、何よりも「楽しさ」を大切にしています。地図づくりを通じて世界中の仲間とつながり、数多くの美しい風景や多様な文化に触れ、おいしい食べ物や飲み物を楽しむ。そうした一つ一つの出会いや経験が大きなモチベーションになっています。また、世界は常にダイナミックに変化しています。その変化する都市や地域の姿をデジタル空間に記録することで、子どもや孫、そしてさらに先の世代が過去の街並みや社会の姿をたどれるようにしたい。そんな思いも、活動を続ける原動力の一つです。

私が所属する青山学院大学の地球社会共生学部では、実践的な活動を通じて学生を育てることを大切にしています。私のゼミでも、学生たちは地図データの検証や災害時のマッピング支援など、実際の社会課題と向き合う活動に参加しています。世界中の人々と協力しながら課題解決に取り組む経験は、国際的な視野や実践力を養う貴重な学びの機会になっています。

学生やこれから大学で学ぶ方々に、どのようなことを期待されていますか?

私は学生たちに、単に地図づくりを体験するだけではなく、現実の空間を読み解く「観察力」を身に付けてほしいと考えています。現代の若者はスマホを見る時間が長く、意外と身の回りの環境をじっくり観察する機会が少なくなっています。だからこそ、北アルプスでのテント泊を通じて地形や水の流れを肌で感じてもらったり、車椅子利用者の視点でコンビニの段差などを調べるバリアフリーマップづくりに取り組んでもらったりしています。自分とは異なる立場や視点から社会を見ることで、これまで気付かなかった課題や発見が見えてきます。そうした経験が、物事を多角的に捉える力につながるのです。

これからの地図は、2次元から3次元(3D)へと進化し、人間だけでなく自動運転車やドローン、AIにとっても欠かせない社会のインフラになっていくでしょう。最後に、私が地図づくりにおいて大切にしている言葉を皆さんに贈ります。「歩け、歩け。続けることの大切さ」これは、日本地図の作成で知られる伊能忠敬の言葉です。高校生の皆さんも、まずはスマホの画面から少しだけ目を離して、自分が暮らす地域や身の回りの空間に目を向けて、自分の足で歩き、自分の目で世界を観察してみてください。きっと、これまで見過ごしていた世界がそこに広がっているはずです。そして、その知的好奇心を持った皆さんと、いつか青山学院大学のキャンパスでお会いできるのを楽しみにしています。

※掲載されている人物の所属や役職、研究内容は、
原則取材時のものです。

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