青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。
太陽電池の国際学会「PVSEC」とは
毎年主にアジアで開催される、太陽電池分野の国際学会で、「世界三大太陽電池学会」の一つと呼ばれることもあります。太陽電池の材料やデバイス構造、評価技術など、世界中から太陽光発電に関するさまざまな研究者が集まり、最新の研究成果について発表や議論が行われます。その中で來福助教の発表は、約200件の口頭発表の中から14件のみが選出される「Best Oral Presentation Award」に選ばれました。
ペロブスカイト太陽電池とは
既存のシリコン太陽電池に比べて、薄くて軽く、形状を自由に設計しやすいことや、吸収する光の波長を調整できるといった特徴があります。そのため、建造物や乗り物、さらに屋内への設置など、多様な用途が期待されています。一方で、時間の経過とともに性能が低下しやすい(劣化しやすい)といった課題もあり、現在、世界中で実用化に目指した耐久性や品質の向上に関する研究が進められています。
評価のポイント
ペロブスカイト太陽電池の性能を測るために、さまざまな評価手法が研究・検討されています。各手法には一長一短がある中で、來福助教は太陽電池に電気を流して発光の様子を調べることで、太陽電池内部のどの層の性能が低下しているかを見分ける手法に着目しました。そして、シリコン太陽電池ですでに用いられているEL(エレクトロ・ルミネッセンス)法の技術を、ペロブスカイト太陽電池にも応用できるようにする手法を見出し、確立したことが、国際学会において高く評価されました。

トピックを先生と紐解く

來福 至助教
米子工業高等専門学校専攻科物質工学専攻修了。奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科物質創成科学専攻修士課程ならびに博士後期課程修了。博士(工学)。National Cheng Kung University博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科助教(データ駆動型サイエンス創造センター助教を兼任)を経て、2023年4月に青山学院大学理工学部電気電子工学科に助教として着任。専門分野は半導体工学。ペロブスカイト太陽電池をはじめとする屋内向け太陽電池の開発、次世代太陽電池の高効率化および評価技術などを主な研究テーマとして掲げる。
現在、私たちの身の回りで普及している太陽電池は、主にシリコン系の太陽電池です。これは生産コストが比較的安く、太陽光から電気への変換効率も高く長時間にわたって性能が安定しているという大きな強みを持っています。しかしこのシリコン系太陽電池は、非常に平らな形状で、割れやすく、曲げることができないという難点もあります。
「ペロブスカイト」は、原子が立方体状に並んだ格子構造をもつ結晶の総称です。この結晶構造を活用した太陽電池がペロブスカイト太陽電池で、シリコン系の太陽電池とは異なり、薄くて軽く、曲げられるという特徴があります。そのため、シリコン系太陽電池と同等に安価で高い変換効率を目指しつつ形状の自由度に制限があるシリコン系太陽電池の弱点を補える点がペロブスカイト太陽電池の大きな魅力の一つです。例えば、自動車の車体や内装部分に貼り付けて発電といった使い方も検討されています。
また、「ペロブスカイト太陽電池」には、軽くて曲げられるという特徴に加えて、吸収する光の波長をコントロールしやすいという特徴もあります。波長とは、光が波として伝わってくる際の山から山までの長さのことで、この長さによって光の性質が異なります。シリコン系の太陽電池は主に屋外の太陽光を想定した設計ですが、ペロブスカイト太陽電池では、波長を細かくコントロールできるため、屋内光に適した設計も可能です。その結果、さまざまなモノに貼り付けて、屋内光を利用して効率よく発電する太陽電池を実現できる点もペロブスカイト太陽電池の大きな特徴です。

さまざまな研究を行っていますが、例えばペロブスカイト太陽電池は、光を取り込むペロブスカイト層が電子(マイナス電荷)を運ぶ電子輸送層と正孔(プラス電荷)を運ぶ正孔輸送層に挟まれた形をしています。このペロブスカイト層の性質そのものをさらに向上させるような材質の研究をしています。またそれをサポートして電気をより効率よく取り出すための輸送層の性能を良くするための研究にも取り組んでいます。
例えば、輸送層にも非常に多くの種類の材料候補があって、それらを一つずつ実際に太陽電池として作製して、実験・評価を行うと、ものすごく時間がかかってしまいます。そこでシミュレーションを用いて、日々、どのように効率よく進めていくかという検討を行ったり、その結果をもとに実際に実験を行ったりしています。
また今回、国際学会で賞をいただいたような、ペロブスカイト太陽電池の評価技術の開発ももちろん行っています。

さまざまな長所のあるペロブスカイト太陽電池ですが、同時に劣化が進行しやすいといった課題も抱えています。この劣化を簡便に評価する手法を確立することは、これから太陽電池を安定的に運用していくに当たって重要な取り組みとなります。例えば設置した太陽電池が想定どおりに発電をしつづけているかを評価するのはもちろんですが、製造工程においても正しく太陽電池を製造できているかを判断するためには、使いやすい評価手法があることが非常に重要です。
すでにペロブスカイト太陽電池の性能を評価する手法は、いくつか考えられています。現在、最も一般的に用いられているのは、擬似太陽光を照射し、電流・電圧特性を測定することで、変換効率や発電できる電力を評価する方法です。この方法は、太陽電池全体の性能を非常に高い精度で評価できるという特徴があります。一方で仮に劣化が起きている場合、太陽電池のどの部分で劣化が生じているのかまではわからないという課題を有しています。
これに対して、私が研究しているのは、ペロブスカイト太陽電池の材料に電気を流すEL法という手法です。この方法では、さまざまな材料が積層されてできている太陽電池の中で、どの層の性能が劣化しているのかを特定できるという特徴があります。
このように、ひとつの評価手法だけですべてを簡単に判断できるわけではなく、それぞれの手法の長所を組み合わせながら電池の性能を評価していくことが、今後も重要になると考えています。
EL法とは、「エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)法」を略したもので、電気を用いて行う評価手法です。現在、一般的に用いられているシリコン系の太陽電池の性能評価を行う際にも、広く用いられている検査技術で、電池に電気を流すことで発光させて、その状態を観測することで性能の評価を行います。この方法は電気を流すだけで実施できるため、電池を解体・分解する必要がなく、工場の製造工程や、製品の設置場所でもその場ですぐに実施できる利点があります。また発光の有無を観測することで、不良箇所を視覚的に把握しやすいという特徴も持っています。
しかし、このEL法をペロブスカイト太陽電池に応用しようとすると、これまでは大きな問題がありました。それは、ペロブスカイトが電気を流すと性能が劣化してしまう特性を持っているということです。そのため、EL法で評価を行うと、測定そのものによって太陽電池の性能が低下してしまうという課題がありました。そこで私たちの研究室では、劣化が起きるメカニズムをさまざまな手法で分析し、その結果をもとに条件を最適化することで、劣化を引き起こさないEL法の確立に成功しました。

ペロブスカイト材料は、イオン結晶というイオンで構成された材料です。そのため電圧をかけると内部でそのイオンがマイナスのものはプラスの方へ、プラスのものはマイナスの方へと大きく移動してしまいます。研究を続ける中で、このイオンの移動が劣化の原因になっているということが徐々にわかってきました。特に直流電流を流すとイオンの移動が起こりやすいことが知られています。あるとき、交流電流で実験を行っていた学生から、「太陽電池がずっと光り続けています」と声をかけられたことがありました。従来であれば弱々しく発光して数十秒で消えてしまうペロブスカイト太陽電池の発光が、これまで見たことがないぐらい明るく光り続けていたのです。この出来事は非常に印象に残っていて、「そうか、交流電流を使えばよいのか」という気付きにつながりました。このシンプルな発想がブレイクスルーとなり、その後の太陽電池を劣化させないEL法の確立につながっていきました。

そうですね。太陽電池そのものの研究に取り組む研究者が多く、検査技術の分野にはあまり焦点が当てられてこなかったため、「EL法の適用は難しい」と一度認識されてしまうと、その発想を見直すきっかけというのがなかったのかもしれません。私の場合は、大学院に進むまでは化学を専門に学び、大学院では太陽電池の研究を行いながらも、半導体工学の研究室に所属していました。このように、少し幅の広い学問を学んできた経緯があり、そうした経験が発想や関心の広がりにつながったのかもしれません。
今回、世界三大太陽電池学会の一つとされる著名な学会で「Best Oral Presentation Award」を受賞したことは、それだけペロブスカイト太陽電池へのEL法の適用に関心が集まっていることの表れでもあります。また今後、さらに有用な評価手法の開発を進めていくうえでも、大きな励みとなる成果になりました。
まず、EL法の領域で言えば、今回の研究は屋内環境で実施しましたが、今後は太陽電池を実際に設置した状態(屋外環境)で評価できる手法の開発を目指しています。これが実現すれば、EL法のメリットである、太陽電池を取り外したり運搬したりする手間を省き、その場で評価できる仕組みの確立につながります。一方で、屋外環境でこの手法を適用する場合には、ペロブスカイト太陽電池からの微弱な発光が太陽光に埋もれてしまうという課題があります。今後はこの課題の克服に取り組み、屋外でも高精度に評価が可能となる技術の実現を目指していきたいと考えています。

また、より広い観点から見ると、ペロブスカイト太陽電池には鉛を含む材料が使われているため、環境負荷への配慮も重要な課題となっています。そのため、鉛を使用しない鉛フリー型の太陽電池の開発など、社会的なニーズに応える技術の実現にも取り組んでいきたいと考えています。ペロブスカイト太陽電池はまだ発展途上の領域であり、解決すべき課題が多く残されている分、新たな研究テーマが次々と生まれる分野でもあります。こうした点から、今後も挑戦し続けるべきテーマが尽きることはないと感じています。
まず大学の1、2年生のうちは、自分の興味に関わらず幅広くさまざまなことを学んでおくことで、将来の道が広がっていくと思います。私自身も、幅広い学びの積み重ねが今回の研究成果につながったと感じています。そのため、惰性でやらされているから勉強するのではなく、自ら興味を持って、主体的にさまざまな学びに取り組むことが、研究の面白さや充実感につながっていくのではないかと思います。
また、これからの時代はAIを活用することは当たり前になりますが、AIの回答に振り回されず、道具として使いこなすためには、人間側の専門性がこれまで以上に重要になります。青山学院大学の理工学部は非常に充実した研究環境が整っています。ここでさまざまな機器を活用しながら知恵を発揮して、AIと協働しながら新たな価値を生み出す「AIネイティブ」な人材へとぜひ成長してください。
※掲載されている人物の所属や役職、研究内容は、
原則取材時のものです。