AGU RESEARCH

未来を創るトピックス
ー 研究成果に迫る ー

青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。

  • 理工学部 物理科学科
  • 掲載日 2024/06/11
  • 将来の技術革新につながり得る超蛍光を用いた光強度の大幅な増幅に成功
  • 北野 健太 助教
  • 理工学部 物理科学科
  • 掲載日 2024/06/11
  • 将来の技術革新につながり得る超蛍光を用いた光強度の大幅な増幅に成功
  • 北野 健太 助教

TOPIC

北野健太助教(理工学部)を中心とするチームが量子の同期現象を利用して光強度を7桁増強することに成功

評価のポイント

今回の研究では、先行研究の報告例が非常に少ない超蛍光の増幅過程に着目した研究を実施。パルスレーザーと連続発振レーザーという二種類のレーザーを組み合わせたオリジナルな実験を立案し、その結果、連続発振レーザーの瞬間光強度が超蛍光によって7桁も増幅される事を実証しました。

成果への注目度

量子力学でよく知られた超蛍光という原子の同期現象を利用した新しい光の増幅過程を実証することに成功したことで、2024年2月12日(月)、物理学分野で世界的に注目度の高い”Physical Review Letters”誌のオンライン版に論文が掲載されました。

イラスト:矢印

トピックを先生と紐解く

北野 健太 助教

理工学部 物理科学科

京都大学 理学部 数学科卒業。一般企業を経て、量子力学との出会いをきっかけに、その魅力に惹かれ、京都大学大学院 理学研究科 化学専攻へ入学、修士課程修了。総合研究大学院大学 物理科学研究科 構造分子科学専攻 博士後期課程修了。博士(理学)。2015年4月より本学理工学部 物理科学科(着任当時は物理・数理学科)に在職。専門分野は量子力学、レーザー、原子分子。2016年ごろから超蛍光の研究を実施している。

超蛍光を利用することで、レーザー光の強度を約1億倍に増強することに成功

超蛍光に関する研究領域を実験装置の進化と独創性で追究

将来の量子光アンプの開発可能性、さらに量子世界のさらなる解明につながり得る成果

将来の「量子光アンプ」の開発につながり得るという今回の研究ですが、どのような意義を持つのでしょうか?

実は今回の研究はこれで完結したわけではなく、もっと大きなゴールがこの先にあると思っています。量子の不思議な世界を明らかにしたいのです。量子は非常に不思議な存在で、ありえないと思うような事象も起きてしまうのです。その秘密を解明したいというのが、この研究のゴールです。その道筋の一つとして、超蛍光に関する研究があります。”Physical Review Letters”誌のオンライン版に掲載された論文には、タイトルで量子光アンプの開発まで行いたいと書いてありますが、思い切って大風呂敷を広げたつもりです(笑)。そのぐらい追究しがいのあるテーマなのです。

実は量子性が高い、つまり量子としての特徴を有した光は、今までもさまざまな技術で開発されています。けれど、その状態を保持しながら光の強さを増幅するというのは、おそらく、私が知る限りはできていません。超蛍光は極めて特殊な増幅器なので、この技術を使って光を増幅することができたらすごいなという思いがあり、まずそれができるのかできないのかを明らかにしたというのが今回の研究です。
もし成功したら、それは将来、量子光アンプの開発にもつながり得るし、そしてその先には、その光を使って量子の秘密に迫る道筋が広がるかもしれない。自分の研究人生すべてをかけても良いと思いながら、誰もゴールに到達していない、先が長い道のりを歩み始めました。その中で、未来につながる可能性のある、大きな階段を一つ上ったというのが今回の研究成果です。

超蛍光とはどういった現象でしょうか?

まず超蛍光という現象について説明したいと思います。これは1954年にR. Dickeという研究者によって発見された現象で、数十年前にも一時期盛んに研究されていたのですが、最近ではそれも少し落ち着いてきた研究テーマだと言えます。この超蛍光というのは、励起状態にある原子の集団が一斉に蛍光を放出する現象のことで、原子のような量子性が顕著な物質(量子物質)を、エネルギーの低い状態から高い状態へ励起すると、その内部エネルギーが光へと変換され、蛍光として自由空間に放出されます。多数の量子物質が同時に励起された場合、それぞれの物質が相互作用し合い、発光のタイミング、すなわち位相を自然に揃え、一般的な蛍光とは異なる高いピーク強度を持った光パルスを放出します。これが「超蛍光」です。これまで半世紀以上にわたって、さまざまな検証がなされてきた結果、超蛍光はあらゆる物理系で起こり得る普遍的な現象であると認識されてきています。

光強度の増幅という点について教えください。

今回の研究では、超蛍光の波長と共鳴した微弱なレーザー光を、原子集団に照射した条件下で、超蛍光を発生させる実験を行いました。その結果として、レーザー光の位相が超蛍光の位相へと転写されていることが判明し、微弱なレーザー光の光強度が超蛍光によってコヒーレント(波長が互いに干渉しあう様)に増幅されたと捉えられる実験結果を得ることができ、しかも瞬間強度にすると、実に7桁も増幅していることがわかったのです。
この現象は超蛍光において、初めに放出された光子が呼び水となり、同じ位相の光子が次々と放出される光子雪崩という現象から説明しうるものですが、今回同期された原子の数は約10⁸個と見積もられます。つまりたった一個の光子が呼び水となり、約1億個の光子からなる光パルスが放出されたのです。ここから、将来的に超蛍光が光強度を増幅する極めて強力な光アンプとして機能することが実証されたと考えられます。

これまでの超蛍光の研究においてこうしたことが実証されてこなかった理由の一つとして、実験装置がまだ進化していなかった点があると思われます。かつて1980年前後にピークを迎え、その後、超蛍光の研究が国際的にやや下火になっていた間もさまざまな実験器具が進化を遂げてきました。今回の実験では、パルスレーザー装置を用いていますが、この装置は当時は1ns(ナノ秒*)単位でしか制御できなかったものが、今ではその1/10,000、100fs(フェムト秒*)単位で制御できる装置が市販品として手に入ります。また、連続発振レーザーの性能も飛躍的に進化してきました。これらの技術を用いることで、それまでは不可能だった実験が可能になり、今回はそこに増幅作用を実証するためのオリジナルな装置を構築することによって、実験の成果を導きだすことができています。そのような視点から、一見するとこれまでやりつくされたと考えられてきた超蛍光という研究領域に着目したことと、その着目を深堀りすることができるレーザー光源装置の進化という、2つのきっかけがあったことが今回の実験につながっていると考えられます。

*1nsは<10のマイナス9乗>秒、1fsは<10のマイナス15乗>秒

この成果が今後の量子研究に対して大きな意味を持つのでしょうか?

これまでお話してきたように、超蛍光自体は昔から知られた現象でしたが、その中にある量子性についての研究はまさに今、世界の最先端を走っている状況だと考えています。超蛍光を活用して、量子の仕組みについて研究を深めていけば、量子の世界についての新しい知見を得られるのではないかと多くの研究者が感じ始めています。そうした背景もあって、今回の実験結果が国際的にも注目度の高い学術誌”Physical Review Letters”のオンライン版に掲載されたのだと思います。
超蛍光の量子性を追究していくことで、量子の謎に対してアプローチができるだけではなく、これからどういう量子技術が開発できるかといったアイデアにもつながります。今はまだ研究のスタート地点に立ったような状況で、何をやったらどんなことが起こるのか、「こうするとこういうことが起きる」のであれば「こうしたらどうだろうか」と、多様な可能性をこれから見極めていかなければなりません。そういう意味では、私自身もこれからのこの領域の研究にとても好奇心をおぼえています。好奇心というのは人それぞれで、さまざまな領域に関心を抱く人がいると思いますが、私は昔から「小さな世界」に強く興味を持っていました。そういう意味で量子の世界は知的好奇心をくすぐる世界なのです。

そして、これが企業の研究であれば、ビジネスの可能性につながるアウトプットを求められますが、学問の世界ではじっくり腰を据えて研究に向き合うことができます。これから私とともに研究に励む学生の皆さんは、研究を通していろいろな技術を見つけるでしょうし、その中に量子の不思議さに対する好奇心を共有してくれるような学生がいたら、それは学びの価値を得るという意味でもど真ん中の意義を得られるのではないかと思います。量子の世界がどうなっているのかを、自分で考えて仮説を立て、実験装置を工夫し、そしてその結果を自分の目で確かめられる。座学ももちろん大切ですが、実験を通じて自分の頭で考えながら目で見て、最後にまた考える。このことが得意な学生にとっては、本学の理工学部は最適な環境が用意されていると感じます。

これからの目標を教えてください。

今回の研究成果は、あくまで光強度という古典物理の物差しで測れる部分を対象にしています。原子集団の同期性についても古典力学の理屈と対応させて説明できる範囲の成果にとどまります。一方で、超蛍光は本来量子力学の世界での同期現象ですから、この超蛍光におけるレーザー光の増幅という量子現象が古典力学の現象とどのように異なっているのかを明らかにしていかなければなりません。具体的には冷却原子と呼ばれる新しい装置を立ち上げて、極めて低い温度の中での原子の動きを観察することで、光が持つ量子性についての議論をできるようにすることが次の目標となります。
目標を叶えるためには、多くの困難があると思いますが、その分今よりさらに面白い研究ができると期待しています。

量子には量子もつれという2つの量子がペアになって振る舞う特徴があります。光子ペアもその名の通り、2つの光子が量子力学的な相関を持っている状態のことを指します。そして、この量子もつれの状態では、古典力学では起こらないような観測結果が得られることは、すでに世界中のさまざまな研究から明らかになっています。ただし、今回の研究のように、超蛍光を起こす原子集団に対して量子もつれ状態の光子ペアを入力した際、量子的にどのようなふるまいが観測されるのかということはまだ誰もやったことがありません。今回増幅された光の中に、どのような量子性が保持されているのか、それを精密に観測していくことを、この領域に関しては考えています。

研究というのは必ず思うようなデータにたどり着けるとは限りません。この研究も8年前に始めた当初は、その現象に対しての知識も乏しく、いわば門外漢のような状態でした。そこから数多くの先行研究を分析し、他の研究者が興味を抱かなかったようなテーマに取り組み、きれいなデータが取れないことも多々ある中で試行錯誤を繰り返しながら、小さな成果を積み重ね、このような発表に結びつきました。
そういう道のりを経て、自らが仮説で描いていたようなきれいな実験結果が得られたときには、研究者として非常に大きな喜びを得ることができ、そしてすぐに次はどのような実験をしたら面白いだろうかというようなことを考えます。
これから学問の世界を目指す皆さんにも、ぜひ自分が夢中になれることを見つけてもらいたいと思います。それは研究じゃなくても構いません。私自身、それを見つけるまでは遠回りしましたので、この見つける作業は難しいと感じていますが、ぜひ好奇心を大切にして夢中の先に喜びが見つかるような、そんな世界へ飛び込んでみてほしいなと思います。

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